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京都府再犯防止推進ネットワーク会議を本学において開催【社会科学研究所】

2024.10.21

子どもと若者の性被害・性加害の現状をめぐって課題共有型円卓会議“えんたく”を実施


 2016年の「再犯防止推進法」の制定以降、自治体においても再犯防止に関する取組が推進されています。2019年度に龍谷大学は京都府と「犯罪のない安心・安全なまちづくりに関する協定」*1を締結し、これまでにハンドブックの発行や研修会を実施してきました。2024年度は、本学社会科学研究所の受託研究プロジェクト「犯罪等の初期段階における地域を基盤としたソーシャルワークの体制構築に関する研究」(研究代表:南島和久・政策学部教授)として取り組んでいます。

 2024年10月3日、深草キャンパス・至心館1Fフリースペースにおいて、「令和6年度 京都府再犯防止推進ネットワーク会議 中部」が開催されました。この会議は、京都府庁および京都府内の自治体の関係部局担当者をはじめ児童福祉に関わるカウンセラー、矯正施設職員、保護観察官、保護司を含むボランティアなど多様な関係者の約40名の参加を得て行われているもので、行政や地域において再犯防止に関して何ができるのかを一緒に考える取組の一環です。

 またこの会議の方法は、本学のATA-netの研究活動で培ってきた討議スキーム・課題共有型円卓会議“えんたく”*2を用いて実施しました。

 当日の会議では、山口裕貴氏(一般社団法人 刑事司法未来、本学法科大学院修了生)が司会を担当し、暮井真絵子氏(本学法学部非常勤講師)がファシリテーショングラフィックを担当しました。ファシリテーショングラフィックとは、会議で共有された話題をホワイトボードにまとめて議論を可視化するものです。

山口裕貴氏(一般社団法人 刑事司法未来)

 この日の会議では、はじめに刑事訴訟法を専門とする阿部千寿子准教授(京都先端科学大学・経済経営学部)が話題提供を行いました。阿部准教授は、犯罪被害者が刑事手続に参加する制度や刑事手続における被害者参加人の法的地位、権限の範囲などについて研究を行っており、公益社団法人 京都犯罪被害者支援センターの活動にも理事として関わられています。

 阿部准教授の話題提供では、最初に近年の刑法の性犯罪規定改正による性的同意の考え方の変化が解説されました。性犯罪は、被害者の意思に反して行われる性的な行為です。性犯罪規定を見直す改正刑法は2017年と2023年に行われました*3

 日本では性に関する話題をオープンにしてはいけないような雰囲気があります。阿部准教授は、「大人世代であっても性的同意や被害・加害の範囲については曖昧な認識であるのが実情ではないか」と指摘し、今回の会議では「性的同意の考え方」や「子どもたちの性加害・被害の実情」、「性に関する知識の伝え方」について、皆で一緒に考えていくことを目指しました。

 

 つづいて、こうした話題提供に関連し、これまで子どもや若者の性被害・性加害に関する相談や支援等で関与してきたステークホルダー4名が、組織上の立場だけではなく、それぞれの経験から得られた知見やエピソードを紹介しました。ここでは、「子どもの問題行動などの違和感に気づき、家族や周辺の大人が早期に介入することが必要であること」や「被害者を本当の意味で救うには加害者への関与が欠かせず、包括的教育によって未来の被害者を防ぐこと」、「子ども同士の性被害・性加害も起きていることから双方のケアを行うのはもちろんのこと、生命・身体の重要性について早期に適切な教育が求められること」、「子どもの心の育ちに重きを置き、子どもにとっての“安全基地”を出発地点として親子で学んでいく必要があること」など、さまざまな課題が共有されました。

課題共有型円卓会議“えんたく”のようす

 また、その後のシェアタイムでは、オーディエンスを含めたフロアの参加者全員が3人1組のグループに分かれて話し合いを行いました。

 話し合われた課題は、グループごとにまとめられ、フロア全体でその内容を共有しました。各グループでは、「子どもが自分のことを見てもらえていると実感できることの重要性」や「家庭内だけでない子どもの安全基地作りの必要性」、「加害者の中にある被害者性への注目とケア」、「相談や支援に関わる関係機関の連携」などが提起されました。ここでは主に、子どもと若者の性被害・性加害の現状に対するアプローチ方法などについて、幅広く話し合われました。

各グループのシェアタイムで挙がったキーワード

 

 会議の後半では、ステークホルダーと話題提供者がそれぞれコメントを交わし、約3時間におよぶ“えんたく”が終了しました。最後に、暮井真絵子氏がファシリテーショングラフィックに沿って“えんたく”の内容を振り返りました。

暮井真絵子氏(本学法学部・非常勤講師)
石塚伸一教授(本学名誉教授)

この会議の締めくくりとして、本会議を監修する石塚伸一教授(本学名誉教授)が講評を行いました。

 石塚名誉教授の講評では、「会の合間に行われたシェアタイムでは、約40名の参加者間の会話が途切れなかった姿が印象的で、課題共有を目的とした“えんたく”としては成功だと実感した。また、今回集まった関係機関の支援者など周囲の大人たちが、子どもと若者の性被害・性加害に早期に介入するように試みているのは大きな進歩だが、その対応には正解が存在しない。だからこそ、今日の“えんたく”で共有したことを実際の現場で振り返っていただくこと、今日をきっかけに他の参加者とも繋がっていただくことが大切だと思う」と述べられました。


【補注】
*1 犯罪のない安心・安全なまちづくりに関する協定
2016年12月に成立、施行された「再犯の防止等の推進に関する法律(再犯防止推進法)」においては、国だけなく自治体にも、再犯の防止等に関する施策について地域の状況に応じた施策を策定し実施する責務があることが明記されました(第4条)。また、自治体に対し、国の再犯防止推進計画を勘案しつつ、地方再犯防止推進計画を策定する努力義務があることが明記されました(第8条第1項)。この法律は、犯罪や非行をした人たちの社会復帰を支援するための初めての法律です。京都府では、2020年3月23日に龍谷大学と協定を締結し、再犯防止施策を推進していくこととしています。
参照:京都府HP

*2 課題共有型円卓会議“えんたく”
円卓会議と呼ばれる討議スキームは、その目的によって、問題解決型と課題共有型に分かれます。また、参加主体によって、当事者(Addicts)中心のAタイプ、当事者と関係者が参加するBタイプ(Bonds)、そして、協働者も加わったCタイプ(Collaborators)の3つに整理されています。詳細は以下のガイドラインを参照してください。
参照:「えんたくトライアルのためのガイドライン 2020.09版」

*3 近年の刑法の性犯罪規定改正
2017年7月の刑法改正では110年ぶりに性犯罪に関する規定が改正され、強姦罪が強制性交等罪へと名称変更され、量刑が引き上げられました。あわせて監護者わいせつ罪や監護者性交等罪が創設されました。このほか、強盗強姦罪の犯罪構成要件等の見直し(罪名を強盗・強制性交等罪に変更)や、強姦罪等(強姦罪、準強姦罪、強制わいせつ罪、準強制わいせつ罪およびわいせつ目的・結婚目的の略取・誘拐罪等)については、非親告罪化されました。2023年7月の刑法改正では強制性交等罪や準強制性交罪が統合され、「不同意性交罪」(5年以上の有期懲役)として処罰されることになりました。また、強制わいせつ罪や準強制わいせつ罪は、「不同意わいせつ罪」(6月以上10年以下の懲役)となりました。あわせて、これらの同意年齢についても13歳から16歳に引き上げられ、16歳未満への性的な行為は処罰対象となりました。
参照:法務省だより『あかれんが』Vol. 82 「性犯罪に関する法律の規定が変わりました!」