第139巻『インターネット時代のヘイトスピーチ問題の法的・社会学的捕捉』
第134巻
『インターネット時代のヘイトスピーチ問題の法的・社会学的捕捉』
金 尚均 編集代表
石塚 武志・魁生 由美子・濵口 晶子・山本 崇記 編著
日本評論社 2023年2月刊
ISBN978-4-535-52726-3
はしがき
序章 権利侵害情報による被害救済・・・龍谷大学教授 金尚均
1 はじめに 2 憲法 3 民法 4 行政法 5 刑法 6 ネット対策
第1章 部落差別に関する司法判断の経過と有害情報対策の課題
・・・静岡大学准教授 山本崇記
1 部落差別への法的接近―本章の目的
2 問題意識と背景―パラドキシカルな事態の出来
⑴ 部落差別に対する司法判断への視点―権利か差別か
⑵ 部落差別を捉える手法をめぐる分岐
⑶ 「部落差別の実態」と差別被害のリアリティ
3 部落差別の定義をめぐる葛藤―制度的把握の変遷
⑴ 部落差別解消推進法(2016)
⑵ 同和対策審議会答申(1965)
⑶ 同和対策事業特別措置法(1969)以降
⑷ 人権差別撤廃委員会(2018)
4 司法判断の現代史
⑴ 類型
⑵ 具体的な事例
(ⅰ) 差別はがき事案―匿名者による部落差別の犯罪化
(ⅱ) 差別発言/ヘイトスピーチ事案―非匿名者による部落差別の犯罪化
(ⅲ) 摘示/アウティング事案
⑶ 司法判断の特徴と課題―小括として
5 部落差別規制における法制度の可能性―和歌山県/湯浅町を事例に
⑴ 湯浅町部落差別をなくす条例(2019)の新規性
⑵ 条例制定までの過程
⑶ 制定以後の運用―モニタリング/制裁/救済に着目して
6 法制度がもたらすパラドクスに抗するー当事者の「具体性」
⑴ 司法的暴力
⑵ 具体性のありかーカミングアウトの構造を捉える
⑶ パラドクスを超えるために
第2章 ネットモニタリングの現状―ネット上の差別情報に対する行政機関の対応状況
・・・部落解放同盟兵庫県連合会事務長 北川真児 愛媛大学教授 魁生由美子
はじめに
1 ネットモニタリング事業に関する全国的な動向と今後の課題
⑴ モニタリングにとりくむきっかけ
⑵ ネットモニタリング事業に関する兵庫県内の動き
⑶ 部落差別動画削除のとりくみについて
⑷ ネットモニタリング事業に関する全国的な動向
⑸ 今後の課題
⒜ 部落差別解消推進法の改正
⒝ ネット上の部落差別に関する調査の継続
⒞ 部落差別のガイドラインの設定、サイト管理者の自主的な削除
⒟ 人権教育・啓発の充実
⒠ ネットの差別書き込みを禁止する法整備
2 香川県におけるネットモニタリング事業―自治体の施策と課題
⑴ インターネット上の差別書き込みー問題発生の現場で
⑵ 自治体の問題把握と施策
⑶ モニタリング実務担当者へのインタビュー
⑷ 対抗する方法と今後の課題
第3章 ヘイトスピーチ規制の合憲性をめぐる議論と表現の自由法理
・・・龍谷大学准教授 濵口晶子
1 本章のねらい
2 表現の自由の法理―学説と最高裁
⑴憲法学における表現の自由法理の概要
⑵表現の自由に関する判例理論についての一般的理解
3 従来の差別的表現・ヘイトスピーチ規制をめぐる消極説・積極説の論拠
⑴従来の規制消極説の論拠
(ⅰ) 自己実現等、表現行為それ自体の価値との関係
(ⅱ) 自己統治の価値・思想の自由市場論との関係
(ⅲ) 憲法の根本原理・国家観と公権力介入への危惧
⑵従来の規制積極説の問題提起
(ⅰ) 差別的表現・ヘイトスピーチの表現としての価値
(ⅱ) 思想の自由市場論・対抗言論の法理と差別的表現・ヘイトスピーチに対する規制の許容性
(ⅲ) 表現の自由の意味・民主政と差別的表現・ヘイトスピーチの害悪
4 近時の学説に基づくヘイトスピーチ規制の位置付け
⑴ 表現の自由法理に忠実であることとヘイトスピーチ規制
⑵ 表現の自由の最大限の保証とヘイトスピーチ規制の許容
⑶ 表現の自由の保護領域論とヘイトスピーチ
5 表現の自由法理をこえて
⑴ 差別構造におけるマイノリティとマジョリティの位置付け
⑵ 表現の自由の問題から、人格権、平等原則の問題へ
第4章インターネット上の集団に対する差別的行動による人格権侵害
・・・龍谷大学教授 若林三奈
1 本稿の課題
2 人格保護の前提としての完全かつ平等な人格の承認の要請
⑴ 私法上の人格保護の前提
(ⅰ) 完全かつ平等な権利能力―私人間における差別の否定
(ⅱ) 内外人平等の原則―国籍による差異はないこと
⑵ 人格権の内包とその解釈規範
(ⅰ) 人格権の意義と出発点
(ⅱ) 「個人の尊厳」から「個人の人間としての尊厳」へ
(ⅲ) 人格の本質的平等―個人の尊厳(2条)尊重の基盤としての平等
(Ⅳ) 人格権の保護模範の現代化
⑶ 判例上の「名誉」による保護の限界
(ⅰ) 人格権・人格的利益の二面性―絶対的保護と相対的保護
(ⅱ) 名誉法益と人格の対等平等性(人間の尊厳)との関係
(ⅲ) 一般的かつ包括的な人格権による人間の尊厳の保護へ
3 平穏生活権侵害による保護の可能性とその意義
4 おわりに
第5章 「全国部落調査」復刻出版差止等請求事件を通して考察する差別表現規制の法理
・・・弁護士 中井雅人
1 はじめに(問題の所在)
2 「全国部落調査」復刻出版差止等請求事件とは
⑴ 事実の概要
⑵ 原告が主張した権利侵害の内容
(ⅰ) 権利侵害主張の根底をなす重要な事実
(ⅱ) プライバシー権(自己情報コントロール権)
(ⅲ) 名誉権侵害(名誉毀損)
(Ⅳ) 差別されない権利
(Ⅴ) 業務遂行権(法人の人格権)
⑶ 立証の困難
(ⅰ) 弁論準備手続の概要
(ⅱ) 争点と問題点
(a) 「全国部落調査」との関連性
(b) 部落差別の実態
⑷ 東京地裁令和3・9・27LEX/DB 文献番号 25572247
(ⅰ) 東京地裁判決の概要
(ⅱ) 被差別部落の一覧表公開の違法性
(ⅲ) アウティングに関する誤り
(Ⅳ) 低すぎる損害額
3 「差別されない権利」の必要性
⑴ 東京地裁判決による救済範囲の「限定」
⑵ 「差別されない権利」によって救済されるべき人々の存在
⑶ 東京地裁判決が示した「差別されない権利」の必要性
4 被差別当事者団体が原告になることの重要性
5 おわりに
第6章 インターネット上のヘイトスピーチ・差別に対する行政的対応
・・・龍谷大学准教授 石塚武志
1 はじめに
⑴インターネット上のヘイトスピーチ・差別に対する行政的対応の意義
⑵本章が対象とする情報
2 差別解消三法の制定と人権擁護行政
⑴差別解消三法の制定
⑵解消法・解消推進法の規定による要請
⑶法務省の人権擁護機関によるインターネット上のヘイトスピーチ・差別の対応
(ⅰ) 人権擁護機関に起きる対応の概要
(ⅱ) 法務省における通知の発出
⑷人権擁護機関による対応の実効性
3 地方公共団体における対応
⑴地方公共団体における条例整備やモニタリング事業の試み
⑵大阪市条例等による拡散防止措置、公表
(ⅰ)大阪市条例の概要
(ⅱ)大阪市条例の運用
(ⅲ)東京都条例、川崎市条例
⑶検討
(ⅰ)モニタリング活動の許容性
(ⅱ)拡散防止措置等の許容性
4 プロバイダ、プラットフォーム等を通じた対策
⑴プロバイダ、プラットフォーム等を通じた対策の必要性
⑵プラットフォームサービスに関する研究会・インターネット上の誹謗中傷をめぐる法的問題に関する有識者検討会
⑶想定されている、ヘイトスピーチ・差別への対応の全体像
⑷プラットフォーム事業者の自主的取組みを評価するためのポイント
⑸有識者検討会が示す、違法・有害情報の削除等の判断基準
⑹インターネット上の違法・有害情報にかかる「共同規制的枠組み」の意義
5 おわりに
第7章 インターネット上の法益侵害に対する刑事的対応・・・山口大学教授 櫻庭総
1 はじめに
2 インターネット上のヘイトスピーチと刑事的対応の枠組み
⑴インターネット上のヘイトスピーチと刑事法
⑵立法論の可能性
⑶解釈論の可能性
3 インターネット上のヘイトスピーチと現行刑法
⑴問題の所在
⑵被害者が特定可能な規模の集団
⑶被害者が特定可能な集団に絞り込む方法
⑷まとめ
4 プロバイダの刑事責任
⑴問題の所在
⑵不作為正犯
⑶作為正犯
⑷作為幇助犯
⑸共同正犯
⑹まとめ
5 インターネット上の表現の特性
⑴インターネット上の表現の特性
⑵被害の継続性
⑶被害の集中性
⑷作出された公然性
⑸まとめ
6 おわりに
第8章 インターネット上の表現による法益侵害の継続とその削除
・・・龍谷大学教授 金尚均
1 インターネット上の情報による被害の特殊性と被害の最小限化
⑴問題の所在
⑵ドイツネットワーク法執行法とその改正の動向
⑶削除の意味
⑷削除の問題性
⑸小括
2 偽情報への対応とその課題
⑴誘因として偽情報
⑵偽情報の影響
⑶偽情報の問題性
⑷外国における偽情報の取り扱いの動向
⑸ドイツにおける現行法上の偽情報の規制
3 おわりに