第87巻『包摂と排除の比較政治学』
第87巻
『包摂と排除の比較政治学』
高橋 進 編者
ミネルヴァ書房 2010年3月刊
ISBN 978-4-623-05677-4
まえがき
序章 包摂と排除の比較政治学 : 野田 昌吾
-問題の所在-
1.福祉国家の行き詰まりと「包摂」「排除」概念の登場
2.ポスト工業社会の生活保障と「包摂」「排除」
(1) 福祉国家の機能不全と「労働市場への包摂」
(2) ポスト工業経済への移行と労働市場の変容
3.再帰的近代における政治と「包摂」「排除」
4.本書の構成
第1部 包摂と排除の理論
第1章 格差・貧困・社会的排除の比較政治経済学 : 石田徹
-雇用と福祉から見たEUと日本-
1.リーマン・ショック以後の雇用危機と福祉
2.格差・貧困・社会排除をめぐる言説展開
(1) 「格差」から「貧困」へ-日本
(2) 「貧困」ではなく「社会的排除」を-EU
3.福祉国家の変容と雇用と平等のトレードオフ
(1) 戦後福祉国家とグローバル化・脱工業化
(2) 福祉・雇用レジーム論とトレードオフの世界
(3) 社会的包摂へのアプローチ-トリレンマへの新たな対応
4.EU社会政策の二大戦略-雇用戦略と社会的包摂戦略
(1) EUにおける社会政策の転換
(2) 雇用戦略と社会的包摂戦略
5.日本型福祉・雇用レジームと貧困
(1) 日本型福祉・雇用レジーム-「雇用による福祉」
(2) 「雇用による福祉」のほころびと若者の貧困
6.「貧困」から「社会的包摂」へ
第2章 包摂と排除の国際比較 : 赤橋 進
-外国人労働者、移民、ムスリム問題-
1.戦後ヨーロッパへの移民の動向と問題の所在-移民、イスラムと排除-
2.移民の現状と移民政策、包摂モデル
(1) イギリス(多元主義モデル)
(2) オランダ(他文化主義、列柱モデル)
(3) スウェーデン(スカンジナヴィア型他文化主義・主権者モデル)
(4) ドイツ(ガストアルバイター分離モデル)
(5) フランス(共和国的同化モデル)
(6) スペイン(文化融合モデル)
(7) イタリア(ガストアルバイター・モデル)
3.移民と統合モデル
4.地域における包摂と排除
(1) 包摂と排除の場としての地域
(2) フランスの場合
(3) ドイツの場合
(4) スペインの場合
(5) イタリアの場合
5.移民政策の転換-選別的移民政策と統合政策の強化
6.EUの移民統合支援政策
7.包摂と排除の抗争と展望
(1) 外国人排除・地域主義・極右政党-ゼノフォービアの台頭
(2) 包摂の展望-同化・統合・共生と他文化主義
第2部 欧米諸国にみる政治的課題
第3章 二重の統合と排除 : 中谷 毅
-トルコに対するドイツの対応-
1.統一後20年と四重の統合問題
2.包摂・統合と排除
3.ドイツ社会におけるトルコ系移民の統合と排除-移民国家と平行社会との関連で-
(1) 外国人労働者の受け入れから移民の統合へ
(2) ドイツにおけるトルコ系移民の社会状況
(3) ドイツ-平行社会を抱える移民国家?
4.ヨーロッパにおけるトルコの統合と排徐-ドイツにおけるトルコのEU加盟問題-
(1) トルコとヨーロッパ統合
(2) ドイツにおける加盟問題への反応-世論と政党
(3) 加盟におけるハードル
5.統合への展望と課題
第4章 揺らぐ「平等と連帯の社会 : 畑山 敏夫
-フランス政治の変容と社会モデルの危機-
1.「平等と連帯」の社会の揺らぎ
2.2007年大統領選挙とフランス社会モデルの争点化
3.「フランス社会モデルの危機」と政治的コンセンサスの崩壊
4.「サルコジ主義」の台頭-フランス社会モデルの何が問題なのか-
5.フランス社会モデルの抵抗力
6.フランス社会モデルんの再評価
第5章 フレクシキュリティと社会的包摂 : 馬場 優
-オーストリアの実験-
1.EUの雇用戦略「フレクシキュリティ」
2.フレクシキュリティをめぐる議論
(1) フレクシビリティとセキュリティ
(2) 成功例としてのデンマークとオランダ
(3) 包摂をめぐる問題
3.オーストリア・フレクシキュリティの特徴
(1) 労働市場のフレクシビリティ
(2) 就業と失業の間の移行-消極的労働市場政策
(3) 教育・訓練と労働市場の間の移行
(4) 家事・育児・看護と労働市場の間の移行
(5) 退職と労働市場の間の移行
(6) 積極的労働市場政策の中心的存在-公共職業紹介センター
(7) フレクシキュリティをめぐる問題
4.オーストリアのフレクシキュリティをめぐる政治的背景
5.オーストリア型フレクシキュリティ
第6章 イギリス中等教育政策における社会的排除との闘い : 小堀 眞裕
-ブレア政権における「アカデミー」の評価を中心に-
1.社会的排除に対する「アカデミー」の実験
2.戦後イギリスの中等教育政策の概略
(1) 1944年教育法からサッチャー政権まで
(2) ブレア政権下での教育政策の概略
3.中等教育政策に関わるブレアの思想
(1) 社会主義・コミュニティ・経済政策としての教育
(2) 「構造以上に水準」からの転換
(3) 「機会をすべての人へ」とメリトクラシー
(4) 選択の強調-競争か、多様性か
4.アカデミーの成果に関する議論
(1) アカデミーの創設とそれに関する是非
(2) OFSTEDによるアカデミーの査察結果
(3) 下院教育技術特別委員会『第5次報告;中等教育』
(4) NAOとプライスウォーターハウスクーパースによるアカデミー評価
(5) 市民団体・研究者たちの議論
5.アカデミーに対する微妙な評価と日本の教育への教訓
第7章 住居をめぐる闘争 : 藤井 篤
-フランスにおけるホームレス問題-
1.ホームレス問題の顕在化
2.社会的排除としてのホームレス
3.ホームレスとは誰か
4.ホームレス支援運動と市民社会
(1) ホームレス支援市民団体
(2) 直接行動主義的市民団体DALの場合
(3) ホームレスへのまなざし
5.ホームレス問題と政治
(1) 社会的排除との闘争
(2) メディア政治とホームレス問題
第8章 下層中間層の没落と再建 : 神谷 章生
-アメリカ医療保障の政治経済学-
1.アメリカ中間層の危機への系譜とオバマ政権
2.中間層の再建と医療保険問題
3.雇用主提供医療保険システムの歴史
(1) 雇用主提供医療保険システムの形成
(2) 1980年代以降の医療給付コストの増大と雇用主提供医療保険
(3) マネジドケアの多様化とアメリカにおける医療保険改革
4.企業主提供医療保険の変貌-保険料の高騰と保証の縮小-
(1) 1980年代以降の医療コスト高騰-GM社の対応
(2) 医療給付改革をめぐる労使交渉
(3) 医療給付コスト転嫁をめぐる政治
(4) 大企業における医療給付の格差構造の意味
5.自由市場の中の不自由な診療の強制-マネジドケアの帰結-
6.アメリカ社会の「社会主義」と意識変化
あとがき